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真田 月狸(サナダ ゲツリ)略してシンゲツのブログですよー。まぁ、いろいろ。
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ベタ甘。 読んだ人から物騒な甘さという評価を得た作品です。

読まれる方は下のタイトルクリックしてどうぞー。

Hark Hamony's Harmonika


「「寒い……」」


雪宿りの途中、そう呟いたのは同時。

どちらからともなく手を握った。

彼女の手は……冷たかった。

「キミの手……暖かいね……」

「うん……」

あまりにも恥ずかしくてそれしか言えない。

「ゴメンね、私の手……冷たいでしょ?冷え性だから……」

そう言って手を解こうとする彼女の手を握り締めて、僕は言ったんだ。

……………………何て?

僕は彼女に―――って、それから―――って言われて……










「――っ!! ハァ……ハァ……」

そこで僕は目を覚ました。

「……夢か」

思い出せるのはあの僕たちの始まり。

それなのに僕は汗びっしょりで、左手が芯から痛んだ気がした。

寒い。もう二月も終わろうとしているに相応しい気温だ。

多分、夢で見たのは電車の窓の彼女の寂しげな笑顔。

それ以外は今でも記憶に霧がかかって思い出せない。

ただ、僕の首から下がった一つのハーモニカ。

「遠い……日本とイギリスは……」

真裏だ。

一つため息を吐いて身を起こしてシャワーを浴びた。

それから着替えて家を出た。

夢見のせいか朝食は食べる気がしなかった。





部屋を出るとき、無意識にハーモニカを首からかけた。












一人で学校に向かう。

彼女がいなくなって一年弱。

未だに慣れることが無い。

慣れることもないままこの道を歩くのももう二週間もなくなってしまったけど……

「卒業か……」

高校生活三度目の卒業式はもう目の前まで来てる。

―― 一度目は憧れているだけだった。


今日の授業もやっぱり聞き流していて


――そして、思いはきっと通じていた……


――二度目は彼女を先に送り出すだけだと思っていた。


昼休みも毎日と変わらず食堂で食事をとって


――彼女はもう旅立っていた……


――三度目、自分が送り出される側になった。


いつも通りバイトを終えて


――隣に違和感しかない一年を終えようとしている。


「……情け…ない」

卒業、そんな言葉は嫌でも今までを振り返らせる

この一年、僕は何をしてた?

ただ、一人の存在が生活から消えただけ。

それだけ。

普通に食べて、普通に寝て、普通に笑って。

普通に泣く事すらしなかった……



教師の小言をBGMにいつも通りの慣れない後悔をして夢に落ちた……











夢を、見た……

とっても恐ろしい記憶と、未来の、夢。



『別れよう?』

―なんで、いきなり……

『だって……遠すぎるよ……きっと、心も離れちゃう……』

―そんなことない!!僕はずっと――

『別れよう?』

―僕は、イヤだ……

『……別れよう?』

―やだってば……

『別れ、ようよ……』

―……

『頷いてよ……』

―あの、ハーモニカどうするの?

『――え?』

―僕の部屋にある、あのハーモニカ―――

『―――捨てて』

―そう、いらないんだ

『そうだよ、だから捨て――』

―なら、預かっておくから

『………―――バカ』

未だに胸を抉る強がりの記憶―――

今朝の起床は涙によるものだった。






今日はもう卒業式の日だ。

ここ数日は何をしたのかも思い出せない。

朝起きて学校へ行くのも陰鬱になりそうだ。

実際ここ数日は休んでしまっていたらしい。

覚えていないが担任からもそんな連絡があった。

さすがに気分が乗らないから卒業式をすっぽかすとか、僕はそんな人間出来てはいない。

いつも通り無意識にハーモニカを首にかけようとした―――

―――ところで意識に痛みが走った。





『――…だから、終わろう? きっと私にも、君にも無理だから』

『そんなことない!! 僕は……』

『うん、私とのことを忘れろなんて言わない……私を忘れて?』



僕はその記憶に向かってハーモニカを投げ捨て――

――られず、ポケットに無造作に突っ込んでおいた。





卒業式はつつがなく進行している。

そう、何事も無くただ流れるままに任せていればその内終わる。

何の感慨もなく、何の感情も沸かずに終える。

それは何の感情も――

――恐ろしい。

冷めた目線で周りを見ていたからこそ気づいてしまった。

彼女から音沙汰は無い。

だが、彼女はまだ、いや、彼女と僕はまだここにいる。

そこから離れるということはつまり……

―――考えが小路に入り込みそうになった時、脇腹に微かな震動を感じた。

ポケットで携帯が震えていた。

なんだよ、こんな時に……

そう思いながらもポケットから少しだけ携帯を取り出しそこに表示されたメールには知らないアドレスと―――

『職員室にてキミの元彼女発見』

心臓が高鳴った――
頭が真っ白になる――
何も考えられない――――――――――――――――――

僕は――――





何度メールを送っても、返ってくることはなかった。

何度電話をかけても通じることはなかった。


そして、ボクは―――――



後ろから先生の呼ぶ声が聞こえる。

当然だ。

卒業式の途中で卒業生がいきなり立ち上がり体育館を飛び出したのだ、当たり前の反応だろう。

けどそんなのはどうでもいい良かった。

ただ、会わなくちゃならない。

会って、このハーモニカを……



返さなきゃならない。




僕はひた走って、校舎の中を暴走し、保健室の前を過ぎ、校長室の前を過ぎ、職員室の前を過ぎ、辿り着いた部屋の扉を思い切り開けた。

扉の開く大きな音が反響している。

音楽室。

僕と彼女を結び付ける一番の場所。

なぜか、ここに来ていた。ここだと思った。

そしてそこには―――――――――

「……引っ掛からなかったね」

そこには懐かしく、最愛の――――――――――

「そりゃね……職員室が一番似合わないくせにあんなメール送ってきて」

無邪気な人懐こい笑顔。

「あれ? メール送ったのが私だって良くわかったね」

「それ以外に無いでしょ?」

「ちょっと安直だったかな……でも、キミのアドレス変わってるかもしれなかったし」

「変えられないよ……」

そう、変えられない。変えようが無いんだ。

僕たちをつなぐものが一つでも減ってしまうのが怖かったから。

「それに……卒業式まで抜け出してきちゃって」

「そう仕向けたのは誰だよ……」

「終わってから来れば良かったのに」

「そんなことしてたらいなくなってたくせによく言うね……」

僕がそんなことを言ったからか彼女の目は見開いておどろいているようだった。

「そこまでお見通し?」

「いや、この状況も良くわかってない」

そう、彼女が何故ここにいるのかわからない。

けど――――――

「じゃ、説明差し上げますと――――――きゃっ、んんっ!!」

そんなものを聞く前に僕は彼女を抱きしめて唇を押し付けていた。

唇を離して僕はポケットに手を突っ込んだ。

そして取り出したものを彼女の唇にあてがった。

メロディーが流れ出す。

ただただ、そのメロディーを聴きながら僕は彼女を抱きしめた。
















「――――――――――と、いうわけで東京でお勉強することになりました」

あの後、僕らは揃って校長直々のお説教を散々食らってから開放された。

「東京……」

そして、今僕の部屋で二人っきりで事情の説明を聞いている。

「いいじゃない、電車でたった三時間よ?」

「新幹線でね……」

まぁ、欧州よりはましだけど……

「あはは、でも今回のことで確認できたしいいじゃない♪」

「確認?」

「うん、私たちはどれだけ離れてても心は離れないって、ね?」

そう言って微笑む彼女の笑顔はシーツ一枚という格好も相まってすごく綺麗で―――――――

「え?ちょっとちょっと?」

「いいじゃん、これから近くなるとは言っても触れ合えないのは変わらないんだし」

「………スケベ」

「今までの分と次に会うまでの分………」

「うん……んっ」

肌に触れ合って、愛を囁き合って、お互いを感じ合って―――――――――――

心を感じ合って、心を囁き合って、心に触れ合って―――――――――――




あのハーモニカは、僕らを音色でつないでくれたから――――――――――

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非公開
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「まじかる☆れっさー♪」

まじれす概要 第一話 第二話    第四話 第五話 第六話 第七話NEW!!


「イヌミミムスメの恩返し」

第一話 第二話



コードネームC.C.



Hark Hamony's Harmonika




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