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私の名は、そうだな、この場はコードネームでいいだろう。
私はコードネームC.C。
プロの掃除機壊し屋を営んでいる。
今日も私は自宅の意味も兼ねる、ここ、飯塚家電事務所で依頼を待つ。
しかし、本業である掃除機壊しは、4年前の開業以来6件しか依頼は来ていない。
今はもっぱら副業である掃除機など、家電の修理で日銭を稼いでいる身である。
本業の最後の依頼は2年前。
とあるご婦人から
『なんとかして嫁にインネンつけたいから気づかれないように掃除機壊してくれない?』
とのことだった。
しかし、依頼完遂後、ご婦人が事務所にいらっしゃった。
てっきり報酬を払いにやってきて下さったのかと思ったが、ご婦人がおっしゃるには、
『あなたが壊したんだから修理費を出してもらうのは当然でしょ?』
とのことだった。
私は、冷静な思考の一方で、こう考えていた。
『このクソババア、ふざけんなよ!! アンタが壊してくれ言うて壊した掃除機の修理費をなんで俺が出さなきゃならんのだ!!』
……決して口には出さなかったが。
あぁ、ハードボイルドで紳士でロリ校長萌えなこの私がそんなことをご婦人にいえるわけがないのだ。
ちなみに、そのご婦人は息子夫婦とは別に暮らすことになったらしい。
嫁と離れたがっていたのだ。私の仕事に満足頂いたことだろう。
そう、満足頂いたはずだ。嫁と離れられたのだから。
決して、ご近所で愛想のいい若い電気屋さんとして扱われている私がごにょごにょっと世間話を
流したからではないと言えよう。
あぁ、そういえばその後しばらくして誰からかはわからないが、
『アンタのせいで息子を泥棒猫に奪われた。謝罪と慰謝料を(ry』
と、盛大にふじこちゃーんな電話が入っていた。
とりあえず、
『私に息子はいない、狂言誘拐ならもっと常識を身につけてこい』
と、叩ききってやった。
今日も副業の依頼が入る。
今日はパソコンの調子を見て欲しいと言う依頼が2件、エアコンから水がたれてくる、といった相談が1件だった。
しかし、この町はとても住みよい町だ。
某巨大掲示板の某『あなたが遭○したD○N客』スレのような客がとても少なく、皆、数年前に流れてきた私のようなものにも暖かく接してくださる。
それでも時々考える。
掃除機壊し屋などこの世界にいても数人だろう。
こんなに画期的な商売がなぜ流行らないのだろうか。
頭の中に、この事務所を開く際叩き込んだ需要と供給のグラフが現れる。
この世界にいても数人。
つまりは、供給が異常に少ないということ。
そこまで考えてふと思いついた。
「これからは洗濯機の依頼も受けたほうがいいのだろうか」
思い立ったが吉日。
その日の内に、と、私は各社の洗濯機の詳細なマニュアルの取り寄せを依頼した。
大抵の家電ならば修理はできる。
しかし、壊すことが、出来ない。
物理的、技術的に出来ないわけじゃない。
なんだか、いつも家電に触れているせいか、壊れたままの家電をみすごせないのだ。
だから、いざ壊すとなるとちゃんと修理すれば生き返るような壊し方しか出来ない。
要するに、チキンハートなのだ、私は。
そして、仄かに夢見てもいる。
治した家電が人間になって恩返(ry
そこで私は考えるのをやめて、傍らの工具箱を手に取り、倉庫に向かった。
そこには、廃棄された家電、修理を依頼された家電、リサイクル法の影響などで行き場に困った家電たちが眠っていた。
私は、その一体一体の様子を見て、治りそうなものとそうでないものに分けていく。
そして、一刻も早く治してやりたいという思いを持ってドライバーを手に取る。
もう治らない家電。それは人間で言うなら脳死の状態。
別の体で、生きること。別の体を、生かすこと。
そんな幻想を奇麗事か、と自重しながら私は今日も家電たちを治している。