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真田 月狸(サナダ ゲツリ)略してシンゲツのブログですよー。まぁ、いろいろ。
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 朝から何度もなるチャイムに耐えかね、扉を開けた。てっきり、そこにいるのは郵便か悪友のどっちかだろうと思っていた。
 ところが、そこにいたのはいかにも大正な伊織袴のお姉さんだった。
そして、その目の前のお姉さんから発せられた言葉は予想外もいいところで、理解するのに数秒を要した。

「私を飼ってくれませんか?」
「……は?」

話は、昨日のことまで遡る。

 

 


 

 

「あー、ヒマー……」

 俺の名前は梶浦 祐樹。 健全な一人暮らしの大学生だったりする。ちなみに今は平日の昼間。 代返を頼んで抜けていたりする。

「あ、クソ、もう玉ねえ……今日だけで三万スッてるぞ…」

 もう一度言おう。俺の名前は梶浦 祐樹。『健全な』獣医学部の大学生だ。

「……あと半万もつっこみゃきっと当たりくるよな……」

 こういう場面であたったことは無いがきっと今度こそ当たるはずなんだから。
そんな無意味な自身のまま稲造さんが機械に吸い込まれていく。そして、しばらく黙々と撃ち続け、その時はやってきた。

「よっし、羽根キタ……このパターンなら、二回目のリーチで……当たりキターーーー!!!」

俺の運かてまだ捨てたもんじゃ……

「あれ? ……単発?」


 そんなわけで今日の戦果はこの缶詰一個。ラベルにはでかでかと松坂牛の文字。
 三万五千円の缶詰ね……
 そんなことを考えながら川原沿いの土手道に出たところだった。不意に野太い声と動物の…犬?の声が耳に飛び込んできた。

「あっはっは!! 逃げろ逃げろ!!」
「キャンキャン!!」

 はたから見ればそれは犬と飼い主のじゃれあいに見えなくもない。が、一つ疑問に思った。
飼い犬とじゃれるにしちゃあゴツすぎるそいつの手の中のブツ。

「はっはっはぁ!! 逃げろ逃げろ犬畜生め、俺の改造を受けその破壊力を上げ、連射性能も格段にアップしたエアガンの威力を………」

 今の説明的な台詞で鈍感な俺にもピンときた。川原で行われているのは、如何にもな虐待であった。
 別に俺は正義とか動物保護とかに興味はない。ただ、気に入らなかった。
そこで俺は、土手からその気に入らない男に向かって、飛び出した。
しーしーのーひーとーみーがーかーがーやいーてー♪
 俺の渾身のキックを受けたその男はちょっと肩がありえない方向に曲がった。

「まぁ、動物いじめるやつだし問題なし」
「問題大ありだ!!」
「はぁ、こんなんただの脱臼じゃねえか。 ちょっと貸せ」

 そいつの肩に手をやり押し込む。ゴキッ、という音がして肩の関節がきれいにはまりこむ。

「お、おおおぉ? 治った……」
「それは良かった。治療費が\5000になります」
「あぁ、はいはい」

そして、俺は懐に5000円札を収めたあと、そいつを殴って気絶させ。
その犬に軽い治療をして……缶詰をやって帰ってきた。

「やべ、もうバイトの時間だ………」

 あぁ、苦学生。ただ、今日を乗り切れば明日は学校もバイトもちょうど休み。
それだけが希望だった。

実際バイトを終えて帰ってきた俺は、布団に倒れこむなり眠りに落ちたのだった。

 

 ぴーんぽーん♪
そして朝、インターホンがなり、俺は目を覚ました。
まだ眠気の覚め切らない俺は時計を確認した。

「んあーまだ8時………だれ? 宅配? 集金? 宗教?」

後の二つならどうでもいい。というかむしろ出たくない。
宅配ならカードか何か置いてってくれるだろう。そう思ってまた俺は眠り始めた。


ぴーんぽーん♪
「ん………9時か……まだ寝てよ……」


ぴーんぽーん♪

「んあー……11時か……出るか」

 さすがに朝から三回もなっているとなると出ないわけには行かない。

「これで三時間ずっと外で待っててくれた美少女とかだったらいいのに…………」

 

 俺は扉を開けて言葉を失った。とりあえず頭の中を駆け巡った単語をいくつか。
 馬車道?耳?尻尾?
 更には何より、驚いたのは、そっくりだったから――

 そして、そこにいた美少女の口から言葉が発せられた。

「私を飼ってくれませんか?」
「は?」
「私を飼ってくれませんか?」

 疑問符を発した俺に律儀に繰り返す彼女。

「えっと、どういうこと?」
「恩返しがしたいんです」

 理解もできないままに俺は彼女をじろじろと見る形になってしまう。

 顔は結構整っている。ぶっちゃけ好みに近い。服装は振袖に、袴? それに首には、マフラー? いや、薄手の布地だし、襟巻きというものかもしれない。
しかし、それ以上に不思議なことがあった。それは、袴から飛び出たふさふさの尻尾と、ふわふわの耳が頭の上に鎮座していたのだから。

「あ、あの………?」

 じろじろ見ていた俺に不信感を覚えたのか戸惑った感じで訊ねてきた。

「あ、ご、ごめん」
「そ、それで私に恩返しをさせてくださいますか?」
「ちょ、ちょっと待って、キミは一体何者でなんで俺のところに?」
「あ、申し遅れました。 あなたに昨日助けていただきました犬です」
「…………………………は?」

 ヤバイ。これはヤバイ。可愛い顔して電波ちゃんか?

「あ、あの……?」

 いかん、思考が停止してしまった。信用できねえだろ、マヂデ。鶴の恩返しじゃあるまいし。
 あー、そういやあの話で罠仕掛けた人可哀相だよなー勝手に罠にかかった獲物逃がされてー。

「あ、あの………?」

 あ、っと、変な思考にハマってたらしいな

「……証拠とか、ある?」
「証拠、ですか………」

 少し考えてからその少女はマフラーを取った。

「外せないん、です」

 そこには、痛々しいほどの錠前をつけられた首輪があった。
 幸いにも首は絞まりすぎていないようだったが、首を動かすたびに明らかに苦しいのは目に見えてわかった。
 それを見て言葉を失った俺を見て不安になったのか袴の帯に手をかけた。

「ちょ、ちょっと待ってどうするつも………」

 ぱさり、と音を立てて落ちた袴。そしてさらには帯を緩め、着物を軽くはだける。
 そこには、無数の傷跡があった。

「……………っ!!」
「私はもともとはお母さんのところで暮らしていました。 でも、ある日ご主人様の都合で新しいご主人様に引き取られることになったんです………だけど、その人の家に来た次の日、私は捨てられました。」
「………もう、いい」

 あまりにも現実離れした話なのに、俺はもう受け入れていた。目を反らしたくなるほど凄惨な火傷やおそらくはエアガンで撃たれた痕が生々しすぎたせいか。

「それで、しばらく野良として暮らしていたのですが………ある日あの人に拾われて、私は安心しました。 でも、あの人は私に首輪をつけた後、私を毎日鉄砲で……」
「もういいって言ってるだろ!!」

 俺が耐え切れなかった。
 だから、そんな自分をごまかすように少女を抱きしめた。

「どうして、あなたが泣いているんですか?」
「わかんないよ、そんなの……」

 どれぐらいそうしていたのか。


 不意に、隣の家の扉が開いた。

「あら、梶浦さ…………」
「……………」
「……………」
「………若いわねぇ」
「後で説明しますからっ!!」

 そう言って俺はこれ異常ないほどの速度で少女を家に引き込んだ。微妙な沈黙の空白が痛かった。
 よく考えてみれば、公衆の面前で、半裸の少女を抱きしめていた?

「あ、あの……過ぎたお願いだとは思うんですが、私を飼ってくれませんか?」
「飼わない!! ただ、ただ………居候なら許可してやってもいい」
「え?私は犬です。 飼って…」
「今の自分の姿知ってるのか?」
「………え?」
「どッからどう見てもひゃくぱー………95%くらい人間なんだよ」

 5%は耳と尻尾の分。
 うん、やっぱりとは思っていたが自分の姿を未だに犬だと思っていたんだな。

「な、何故にっ!?」
「いや、知らんよ。 というかな、そういうわけで…服着てくれ…」

そんなこんなで気ままな一人暮らしは終わりを告げたのだった。

 

 

 


「とりあえずさ………最低限の生活用品はおふくろとか姉貴の遺したものがあるはずだから………お前はそれを………」
「えと、ご、ご主人様、私は……」
「あー………ご主人様は止めてくれ。 俺は、祐樹。梶浦祐樹」
「は、はい。 えーっと……ゆ、ゆうき様?」
「……様はやめれ」
「じゃあ………………………………………………………………………………………………ゆ、ゆうきさんで」
「よし、わかった。……あー、キミの名前は?」
「えと、生まれてから貰われて……名前を貰う前に捨てられてしまって……あ、あの人からは『マト』って呼ばれてました」
「それ、変えよう。ていうか名前じゃない」

 今更ながらあのやろうにまた怒りが沸いてきやがったぞ………………

「俺が考えるから」
「あ、はい♪」

 たったそれだけのことなのにそんなに嬉しそうにするのか。

 

 


「さて、どうしたもんかな……」

 とりあえず部屋の説明をして少女をその部屋に案内したあと、俺は自室に戻り、名前を考えた。
 ふっと、机の上の写真が目に入った。

「瑠璃姉…………」

 

 

 

 


「おーい、起きろー」

 名前を決めて部屋を訪れると少女はベッドの上で丸くなって眠っていた。

「おーい」

 起きる気配が無いのはどうしたものか。と、「んんぅ……」といううめきと共にそのミミがぴくっと反応した。
 そして俺の手は欲望のままに……………


 そのふさふさの耳に伸びていった。指先が触れた瞬間に耳がぴくん、と反応する。そしてその手触りについつい、撫で付けるように触ってしまう。
 少女の顔は、まるで耐えるように、赤く染まっていく。

もふもふ、もふもふ

「んあっ、ふ、ふぁっ」

もふもふ、もふもふ

「んっ、ふぁぁっぁっ」

 ……………これ以上やると俺の鉄壁の理性すら崩壊しそうなので解放する。

「起きろー、起きろー」
「んあぅ……」

 肩をゆすり何度も声をかけて、やっと少女は薄く目を開ける。
 その紅潮した頬はなんですかそれだけでも理性が40%くらい削られてるんですよ残り5%ですよどうしてくれますかというか狙ってやってるのかていうか思考がやばいことになってる落ち着け落ち着け Be Kool私は冷静だBeKoolBeKool……………

 よし、落ち着いた。それと、心の準備もできた。

「起きろー……『リルカ』ー、起きろー!!」
「あ、はい…………」
「起きたか、『リルカ』」

 そこで少女は周りをきょろきょろ見回し、自分以外がいないことを確かめ、そして自分を指差し言った。

「えと、『リルカ』?」
「うん、これからよろしくな、『リルカ』?」
「初めて……名前を貰いました………」

 その少女―たった今、自分をもらった少女、リルカ―はボロボロ涙をこぼしながら笑顔を浮かべた。

「ありがとう、ございますっ…!」

 

「ていうか、ドタバタしてたかは知らんが、忘れていたことがある。」
「なんですか?」
「うん、リルカ、ちょっと」
「はい、リルカです!!」
「リルカ」
「はいっ!!」
「……」
「……?」
「……リルカ?」
「はい、私リルカですよっ!!」

 あー、うん、名前がそんなにうれしかったか。

「とりあえず、落ち着こう。それと、名前を呼ばれることに慣れよう」
「あ、はい、わかりました。」
「とりあえず、その首輪を外そう」
「?」
「見てるとちょっと苦しいみたいだしな。新しいチョーカー……まぁ、首輪買ってやるよ」
「そ、そんな、悪いです!!」

 顔を真っ赤にしながら否定するリルカ。うん、可愛い。

「まぁ、新しい首輪云々は置いといてそれを外そう」
「は、はい………」

 そう言って俺はリルカの首輪についた錠前を手にとって見る。

「んっ………」
「あ、悪い痛かったか?」
「いえ、大丈夫です」

 なんとか外したいは外したいが、リルカの首の周りで工具やら刃物やらを振り回すのはしたくない。
鍵屋に任せようにもさっき電話したところ、ウチの近くの鍵屋は三日後まで休みだそうだ。

「じゃぁ………」

 どちらにしろこの首輪はリルカの首を絞めてるんだ。
 とりあえずは首輪の革を伸ばして首を絞まらないようにしよう。

………革、だよなこの首輪。革を延ばすってどうするんだ?

「………リルカ、ちょっと出かけようか」
「え?」
「色々と買っておこう」
「はい♪」

 うれしそうに尻尾を振って玄関へと向かうリルカ。
 お散歩お散歩と歌いながらはねている姿は可愛らしいが、……その格好で行くの?

「…………リルカ、着替えないか?」
「はいはい?」
「あー、姉貴の服があるからそれとか……」
「あ。あの、ゆうきさん………人の服ってどうやって着るんですか?」

 …………………そこからですか、リルカさん?

「ゆうきさんが着せてくださいますか?」

 ……………………………………俺はどうしたらいいので?

「あー……じゃ、じゃあいいや、一緒に服買ってそ、それを着ようか」
「わかりました、では行きましょう」

 リルカはそう言って玄関へと向かった。俺はある物を持ってリルカを追いかけた。

「リルカ、これ」

 そう言いながらマフラーをかけてやる。

「それと、これもな」
「うきゅ!あ、あの………これ、ミミが痛いです………」

 そう、俺がかけてやったのは帽子。
 ただ、ミミが少し押しつぶされるのでリルカはお気に召さないようだ。どうしよう、耳付き少女を連れて歩けば俺の近所での信用は…………ど う し よ う ?

 

 

「ゆうきさん、痛いです………」

リルカの涙目はウルウルしている。こすれるのがそんなに痛いんだろうか………
俺のコツコツ積み上げたご近所信用…………さらば!!

「………痛いなら、帽子は無しで行こう。」

 もしくは、耳が痛くないような帽子を探さなきゃな。俺の世間体のためにも。
 俺が先に外へ出て待っているとリルカは周りを気にしながらキョロキョロとしながら出てきた。

「あ、あの、ゆうきさん、………リードとかつけないんですか?」
「りーど、って………ヒモ?」
「ハ、ハイ…つながないんですか?」

 リルカがつながれている様子を想像してみる………。そにゃどこぞの方みたいな趣味はございません。

「リルカさん、今のご自分の姿を認識してください。 人間の姿ですね?よって私は君を繋がない。 さ、行くか」
「は、はい………」

 多少気圧されたようなリルカを引き連れて玄関を出る。
 とりあえず後で外見に相応な常識を叩き込んでおかねばなるまい。
 そんなコトを考えながら、リルカの手を握って町へ出た。

これからの波乱万丈で、でもきっと楽しくなるであろう日々を描きながら。

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